「夜専用」のスキンケア
「コスメ沼」という言葉がある通り、化粧品は単なる日用品ではなく、「選ぶ楽しみ」や「取り憑かれる魅力」に溢れたアイテムです。その中でも特にスキンケア製品、中でもレチノールが使用されたものはその程よい敷居の高さ(ドラッグストアで買える「ちょっと高級な」コスメ)や効果の実感しやすさ、新製品が登場するスピードの速さから、「レチノール沼」という専用の言葉がある程ファンの多い分野です。
しかし、レチノール化粧品はその人気の高さにも関わらず、使う上で少し注意が必要なアイテムで、外出時は使わない方が良い、あるいは「朝ビタ(ビタミン)夜レチ(レチノール)」といったあたかも夜専用のものとして紹介されることも多いです。一体、レチノール化粧品はどうしてそのように扱われているのでしょうか。また、他にも注意が必要な成分はあるのでしょうか。
紫外線に弱い「レチノール」、感受性を上げる「フロクマリン」
レチノールは化学式C20H30Oで表されレチノイドと総称される物質の一種で、ビタミンAの別称でもよく知られています。分子内に共役二重結合と呼ばれる反応を引き起こしやすい部分を多く持っているため、化粧品成分としては反応性が比較的高く、肌につけると角質層のターンオーバーを促進することによって、肌のくすみやシミ、シワを改善する効果が期待できます。また、レチノールは発生した活性酸素を無害化する、いわゆる抗酸化作用を発揮することでも知られています。
しかし、レチノールはその反応性が高いことによる大きな弱点を抱えており、それが「比較的分解されやすい」といった点です。レチノールの共役二重結合の部分は常温では比較的安定ですが、何らかのエネルギーを加えると分解、もしくは空気中の酸素と反応を起こします。日常生活の中で加わりやすいエネルギーの代表的なものが直射日光による紫外線で、レチノール化粧品を肌につけ、特に対策せずに外出するとその影響をまともに受け、酸化、分解反応が起こってしまいます。
酸化、分解されたレチノールはその働きを失ってしまいます。肌のターンオーバーを促進したり、活性酸素を除去したりする効果はあまり期待できないようになり、さらに悪いことに、反応によって生じた酸化物は肌を刺激したり、レチノール特有の「レチノイド反応」と呼ばれる副作用を悪化させたりしてしまいます。そのため、レチノール化粧品は夜専用のスキンケアとして、あるいは十分な日焼け止め対策を施した上での使用が推奨されています。
また、一部の化粧品成分は肌の紫外線に対する感受性を増大させ、日焼けの症状を悪化させてしまいます。特に知られているものはベルガモットやグレープフルーツの抽出物に含まれるフロクマリンと呼ばれる物質で、肌の紫外線に対する感受性を増大させてしまいます。基本的に化粧品にはフロクマリンを取り除いた成分が利用されていますが、パッケージに紫外線を避けるように書いてあった場合、あるいはマイナーな海外コスメを使う場合などは注意が必要です。
夜に適した「ナイトクリーム」
レチノールや柑橘系エキスのような一部の化粧品成分は日光の紫外線によってネガティブな作用をもたらしてしまうため、夜の使用が推奨されますが、そのような成分が含まれていなくても「夜に使ったほうが良い」アイテムも存在します。代表的なものは「ナイトクリーム」と呼ばれるスキンケア化粧品で、通常の美容液やクリームよりも油分や油と馴染みやすい美容成分が多く、また、保湿力(水分を逃さない作用)により優れていることを特徴としたものです。
このナイトクリームはスキンケアの観点では大変優れたアイテムですが、通常のクリームよりもかなり油分が多いため、スキンケア後に日焼け止めやファンデーションを重ねるとベタつきを強く感じてしまうようになります。また、ファンデーションを薄く塗っただけでも「厚塗り」の状態になってしまうため、メイクが汗や表情で崩れやすくなってしまう原因にもなります。ナイトクリーム自体はその名前が示すように夜のスキンケアに利用し、日中は通常のクリームを使った方が良いでしょう。
朝のスキンケア、夜のスキンケア
このように、一部のスキンケア製品は日中の使用に適しておらず、「夜専用」として使うことが推奨されますが、折角だから朝も夜も使いたい、使い分けたいけれども買い揃えるのが面倒、と感じる方も少なくないことでしょう。実際にレチノールについてはパルミチン酸レチノールのように安定性を高めてその作用を弱め、日焼け止めを塗ってケアすれば朝に使っても問題ない成分も開発され、使う上での敷居がより低くなっています。パルミチン酸レチノールの効果はレチノールと比較するとやや穏やかですが、手軽に効果を実感したい場合には良いでしょう。また、フロクマリンの影響についても不純物を取り除く技術が発達し、フロクマリンフリーの原料が広く流通しているため、肌荒れに悩まされるケースはごく稀です。
しかし、よりスキンケアの効果を高めたいというのであれば、朝と夜のアイテムの使い分けはとても大事です。朝は失われた水分を補ったり、昼間の紫外線から肌を守ったりすることを重視し、夜はダメージを受けた肌を回復させることを重視することで、肌をより良い状態に保つことができます。少し手間にはなりますが、きっとその努力は貴方を裏切らないことでしょう。
