放射線で美容効果??「危ない」化粧品成分「ラジウム」に魅せられた人々

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化粧品にラジウム?

 化粧品選び、貴方はどんなものを重視していますか。ブランド、値段、パッケージ、人それぞれかと思いますが、スキンケア製品であれば「成分」で選ぶ方も多いのではないでしょうか。少しでも肌に潤いを持たせたい、シワやくすみを改善したい、私達は切実な願いを込めて化粧品を買い求めます。特に新発売の製品に「新しい成分」が配合されていると聞くと、思わず大きな期待を寄せてしまいます。

 しかし、新しい成分の中には時々、思わぬリスクが潜んでいることがあります。今日ではどの化粧品を買っても基本的には安全に使用できますが、規制が今よりも緩かった時代、あらゆる成分が試行錯誤で利用され、中には非常に危ないものもありました。「ラジウム」はその1つで、今では使い方次第では身体に様々な害を及ぼすことが分かっているにも関わらず、20世紀前半の一時期、「輝かしい未来」の象徴として、様々な化粧品に利用されていたのです。一体、ラジウムとはどんな成分だったのでしょうか。

史上最も「危ない」化粧品成分、ラジウムとは?

 ラジウムは化学式Raで表される金属の一種で、化学的にはアルカリ土類金属(カルシウム、バリウムと同じ種類)に分類されます。常温では銀白色の固体で、水にとても溶けやすいことが特徴ですが、化学的な性質は十分に解明されていません。しかし、ラジウムの原子構造は不安定で、「α崩壊」を引き起こすことによってラドンとヘリウムに、その後、「β崩壊」「γ崩壊」を引き起こし、大量のエネルギーとヘリウム分子、電子(放射線、一般的には放射能とも呼ばれます)を放出しながら最終的に鉛へと変化します。

 放射線は適切な管理下で使用すれば有用なもので、今日ではレントゲンやCTスキャン、ガンの治療などに用いられています。また、科学的な効果は必ずしも立証されていないものの、ラジウムや崩壊して生成したラドンを多く含んだ温泉が身体に良いとされています。しかし、放射線を大量に浴びた場合、その強いエネルギーが熱傷を引き起こしたり、細胞のDNAに大きな損傷を与えることによってガンや様々な二次的な障害を引き起こし、命を奪ってしまうこともあります。そのような事態を防ぐため、ラジウムのような放射性物質の取り扱いは有資格者に限られ、また、身体にネガティブな影響を与えるような量が化粧品に利用されることはありません。

ラジウムに「魅せられ」「騙された」人々

 しかし、1910年代から30年代の一時期、信じられないことに、ラジウムは美容を目的に利用されていました。ラジウムは暗闇で発光することで知られており、その性質から時計の夜光塗料として利用されていましたが、工員として従事していた若い女性達は塗るために用いていた筆を舐めて整えていたため、ラジウムが体内に蓄積し、光を放つようになっていました。彼女達は夜の社交場でひときわ輝かしい存在となり、中にはより異性の気を惹くため、歯にラジウムを塗った人もいたそうです。彼女達は後に重篤な放射線障害に苦しみ、「ラジウム・ガールズ」裁判を起こすことになりますが、放射線は身体に良い効果をもたらすものとして喧伝されて様々な化粧品に配合され、日本でも美白化粧品として「ラヂウム液」等が販売されました。日本各地で「ラジウム温泉」がブームになったのも丁度この頃です。

 また、ラジウム化粧品の生産、販売に力を入れた企業も現れ、最も有名なものとしてはフランスのThor-Radia社が挙げられます。同社はアルフレッド・キュリー博士(ノーベル賞受賞のキュリー夫妻とは名前が似てはいるものの、無関係な人物)のお墨付きとして1932年に設立され、臭化ラジウムを配合した「奇跡のクリーム」や歯磨き粉、石鹸(こちらはラジウムではなくトリウムが使用されていました)が放射線による健康増進効果を謳い、5年程販売され続けました。

 これらの危険なブームは放射線による障害が明らかになり、各国による規制が強化される中で終焉を迎えます。不幸中の幸いにも、ラジウム入りの化粧品を販売していた企業の大半はラジウムを宣伝の道具としてしか考えておらず、ごく僅かしか配合しない、もしくはそもそも使用していなかったため、目立った健康被害は起こらなかったといいます。(同時期にラジウムを含んだ偽薬も販売されており、そちらの方では健康被害による死者も出ています)

それでもラジウムに「魅せられる」私達

 このように、化粧品や美容の話題では「過去の過ち」として取り上げられることの多いラジウムですが、現在でも「ラジウム温泉水」や「ラジウム鉱石」を利用した化粧品が一部で販売されています。このような製品はラジウムを崩壊して生成するラドンを体内に取り込むことによる「ホルミシス効果」(微量の放射線による細胞活性化)を目的として配合しています。微量の放射線による効果を科学的に証明することは難しく(私達は常に微量の放射線を浴び続けているため、その影響を除くことは困難です)、未だに議論が続けられているトピックですが、それだけ私達が放射線に今尚、「魅せられて」いる証拠といえるでしょう。「ラジウム温泉」も未だに日本各地に存在し、多くの人で賑わっています。

 もし貴方がラジウムの効果を試してみたい、あるいは当時の方々に想いを馳せたいと感じたのであれば、一度「ラジウム温泉」を旅の目的地としてみてはいかがでしょうか。決して訪れやすい場所ばかりではないのですが、だからこそ旅の非日常感を楽しみ、もしかすると当時の方々が期待していた、放射線による効果も実感することができるかもしれません。

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