「植物由来」の「石油系成分」とは?どんな違いがあるの?

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植物生まれの石油系成分?

 貴方は化粧品の成分についてどんな印象を持っていますか。普段あまり関心がない方でも、「天然由来」「石油由来」という言葉は聞いたことがあり、前者は肌や髪に優しく、後者は手軽だけども刺激が心配、そう思っている方は多いのではないでしょうか。実は石油も植物の化石なのですが、花や緑と煙がたなびく化学工場の写真を並べられると、どうしても前者の方に良いイメージを抱くようになります。

 しかし、実際には「石油由来」「石油系」と呼ばれている成分の中にも、天然由来の原料から作っているものが多く存在します。保湿成分として有名なグリセリンやいわゆる「高級アルコール系シャンプー」の成分として有名なラウレス硫酸ナトリウム、殺菌成分としてお馴染みのエタノールなどは石油から合成することもできますが、パーム油やサトウキビの成分を分解、発酵させて得ることもできます。同じ成分でも合成方法によって性質の違いはあるのでしょうか。また、どうして石油由来のもの、天然の植物由来のものの両方が利用されているのでしょうか。

どちらも「全く同じ」成分

 イメージの面では大きく異なる石油由来、植物由来の成分ですが、同じ成分であればその性質は全く同じです。ラウレス硫酸塩を使ったシャンプーを「パーム油から生まれた肌に優しい成分」と表現したり、植物由来のグリセリンを「植物性グリセリン」と区別して使ったりすることが時々ありますが、成分としての構造や性質は石油から合成されたものと基本的には変わりません。(ただし、アミノ酸については合成することで天然にはあまり存在しない「光学異性体」が得られるため、作用が大きく異なることがあります)

 石油由来と植物由来の成分の若干の違いを挙げるとすれば、成分中に含まれる「不純物」の量が異なることです。グリセリンを例に挙げると、石油から合成して得られるものについては不純物をほぼ含みませんが、パーム油などを分解して得られるものについては原料に由来する微量の油脂や脂肪酸などを含んでいます。そのため、純度の高さが求められる医療用としては石油由来のもの、しばしば油脂や脂肪酸と併用される化粧品用としては石油由来のもの、植物由来のものの両方が用いられます。

植物由来の成分を使う理由①「安全性」についてのイメージ

 石油由来、植物由来いずれの場合であっても、「同じ」成分であればその安全性は基本的に変わりません。しかし、かつて石油由来の成分は天然由来のものと比較して「刺激性が強い」と言われていました。原料となる石油や合成した成分から十分に不純物を取り除けていなかったため、時々健康被害をもたらしていたのです。一方、植物由来の成分は不純物こそ含まれてはいたものの、油脂や脂肪酸など肌への刺激が少ないものが中心であったため、「比較的」安全に使うことができました。

 このイメージは現在では変わりつつありますが、それでも植物由来の成分に安心、安全を感じる方は少なくありません。そのため、ナチュラルコスメなどでは「石油系の成分を使わない」ことを目的として、植物由来のグリセリンやエタノールを使用することがあります。また、普及価格帯のシャンプーでは、主成分のラウレス硫酸ナトリウムが「ヤシの実由来の優しい成分」として紹介されることがあります。

植物由来の成分を使う理由②「持続可能性」の高さ

 植物由来の成分が利用されるもう1つの理由としては、資源の持続可能性の高さが挙げられます。石油は世界中に燃料として使用可能な程豊富に存在しますが、その埋蔵量は有限で、いずれ枯渇することが懸念されています。一方、植物は仮にその実や葉などを利用したとしても、植物自体の繁殖力が強かったり、適切に栽培可能であったりすれば、翌年も同じように利用できることが期待できます。このサイクルを成り立たせるための仕組みは「持続可能性」と呼ばれ、近年、様々な分野で注目されています。

 特にヤシの実から作るパーム油は持続可能性の面で大変優れた存在です。パーム油は他のあらゆる植物製の油脂よりも生産性に優れており、その収率は大豆油の10倍とも言われています。また、パーム油の原料であるアブラヤシは連作にも強いため、過剰な開発さえ行わなければ自然環境を壊すことなく、長期間安定した収益を期待できます。そのため、パーム油から得られた界面活性剤やグリセリンは環境に配慮した化粧品成分として、高価で特別な商品だけではなく、ごく当たり前のように化粧品に取り入れられています。また、トウモロコシや小麦、サトウキビなども生産性ではアブラヤシには及ばないものの、エタノールやコーンスターチなどの原料としてしばしば利用されています。

やっぱり、植物由来の成分を選ぶべきなの?

 このように、全く同じ化粧品成分であったとしても、植物由来の成分には持続可能性などの面で限りある資源である石油由来のものにはないメリットが存在します。最近では微生物発酵などの技術も進歩しており、より多くの植物由来成分が化粧品に取り入れられるようになっており、何よりも「安心感」を手に入れたい、といった考え方の根強さから、今後もそのような流れは続くことでしょう。

 しかし、植物由来の成分の生産には限りがあり、より大規模に生産しようとすると持続可能な範囲を超え、水資源の枯渇や森林破壊といった問題を引き起こします。また、パーム油等はかなり人手に頼った生産であるため、労働環境の劣悪さなども問題提起されています。この点は石油由来の成分の方が優れており、その大半の工程を人手に頼らずに生産可能であるため、成分によってはむしろ石油由来の方が持続可能性面で優れている、といった場合も存在するでしょう。

 「石油由来」「植物由来」、いずれも化粧品にとっては欠かせない成分です。極端にどちらか盲信したり毛嫌いしたりしてしまうのではなく、その背景を知りつつ、本当の意味で「自分に合った」成分が使われた製品を選んでみてはいかがでしょうか。

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