男性化粧品の定番「メントール」
貴方は男性向けの化粧品にどんなイメージを持っていますか。以前はドラッグストアの一角に、汗ふきシートやシェービング、トニックシャンプーなどがひっそりと置かれていた程度ですが、最近では男性特有の肌の悩みを解決するための化粧水やオールインワンジェル、手軽に使えるBBクリームやファンデーションなど、品揃えも豊富になってきました。毎日のメイクを嗜む男性はまだ少数派ですが、スキンケアは男性の嗜みとして定着しつつあり、昨夏は「日焼け止めを塗る高校球児」が話題にもなりました。
そんな男性向けのスキンケア化粧品を象徴する成分が「メントール」です。メントールは夏向けの化粧品に含まれている成分で、肌につけると「ひんやり」「爽やか」に感じられますが、男性向けの化粧水や汗拭きシートには季節を問わず必ずといっていい程、シャンプーや洗顔料などにも好んで取り入れられています。そのため、男性向けの化粧品といえば「ひんやり」「爽やか」と思っている方も多いのではないでしょうか。女性向けのスキンケア製品が「しっとり」「つややか」を謳うのとは対照的で、どうしてこうも好みが異なるのだろうと思ってしまいます。
メントールとはそもそもどんな成分なの?
そもそも「メントール」とはどんな成分なのでしょうか。メントールはペパーミントやハッカに多く含まれており、香りをもたらす植物由来成分として知られているテルペノイドの一種です。メンソールと呼ばれることもあり、タバコや眠気覚ましのガムに含まれている成分としても有名で、肌につけたり吸い込んだりすることで、「ひんやり」とした感触を得ることができます。そのひんやり感は夏にはとても嬉しい効果で、ハッカ油をエタノールなどに溶かして作ったハッカスプレーはご当地のお土産としても有名です。
そして、そのひんやり感は実際に肌の温度を下げるのではなく、肌に備わっているセンサーを「錯覚」させることによって得られます。肌には温度を感じるためのTRPチャネルと呼ばれるセンサーが備わっていますが、メントールはTRPチャネルの中で26℃以下の温度で活性化するTRPM8と呼ばれる部分を刺激します。その結果として、肌はあたかも表面の温度(通常では32℃前後)が26℃以下に下がったように錯覚し、冷たく感じます。また、この感覚は実際に冷やすことで相乗効果が得られるため、メントールは化粧品ではエタノール等の揮発性が高く、熱を奪いやすい成分と一緒に利用されます。
男性は「さっぱり」を好み、女性は「しっとり」を好む
では、どうしてメントールは男性向け化粧品に好んで利用されるのでしょうか。それは、男性と女性の肌環境の違いに起因しています。男性ホルモンには皮脂の分泌を促進する作用があるため、男性の肌には女性の約2倍の皮脂が存在し、個人差はありますが肌のベタつきに悩まされることが多くなります。そのため、男性向けの汗ふきシートや洗顔料には皮脂を効率的に落とすこと、また、化粧水やシャンプーにはよりさっぱりとした使用感が求められます。メントールはしばしばアルコールと併用されますが、この組み合わせは皮脂をしっかりと落とし、かつその清涼感で毛穴を引き締め、過剰な皮脂の分泌を抑える効果が期待できるため、男性向けのニーズをしっかりと満たすことができます。
一方、皮脂量が少ない女性にとって、化粧品に求められる役割は過剰な皮脂を程良く落とし、肌に必要な油分や水分を補うことです。また、女性は男性よりも肌が薄く、刺激を感じやすいためマイルドな使用感が好まれます。そのため、制汗スプレーやリップクリームなど一時的に涼しく感じたい、といった製品を除いてメントールの使用量は概ね控えめで、男性向けではまず見かけないような油分や保湿成分が豊富なクリーム、低刺激のアルコールフリーの化粧水などが多く販売されています。
男性だってしっとりしたい!スキンケアのトレンド変化
男性向け化粧品には欠かせない存在とされてきたメントールですが、最近ではトレンドに変化がみられ、メントールをあまり使用せず、さっぱり感よりしっとり感を重視した製品を多く見かけるようになりました。
男性の肌は女性に比べて水分の蒸発を防ぐ油分が多く含まれていますが、油分の撥水性が災いし、保水力には大きく劣っています。そのため、男性の肌は一見して潤っているように見えるものの、含まれている水分量は女性の半分以下で、常に水分不足に悩まされている状態です。メントールやアルコールを主成分とした従来の男性向け化粧品は「皮脂を除く」ことには優れているものの、肌を潤わせることは不得意でした。
一方、最近の製品は男性の肌にとって本当は重要な「保湿力を補う」ことに注力しているため、女性向けのスキンケア製品と同様にヒアルロン酸やコラーゲン、セラミド等の保湿成分がより多く含まれており、肌につけるとしっとりと感じられます。女性向けのクリームや美容液と比較すると高級脂肪酸やワセリンなどの使用量が少ないため、「肌に蓋をする」感覚は得られませんが、男性の肌は元々油分が多いため、保湿成分を補うだけで十分な効果を期待することができます。このような製品は従来の「さっぱり感」に対するニーズが依然として強いため、まだマイナーな存在でもあるのですが、徐々にドラッグストア等でも見かけるようになってきました。
「それしかない」から「選べる」存在へ
このように、メントールは皮脂が多く、暑い中で運動や仕事に従事する男性の肌のケアにとって、かつては「それしかない」存在でした。しかし、男性の肌に対する研究が進み、また、好みが多様化する中で、最近では「好みで選ぶフレーバーの1つ」へと変化しつつあります。さっぱりとした使用感が好きであれば今まで通りメントールが使用された製品を使い続けることができ、よりしっとりとしたいのであれば他の製品の選択肢も豊富にあります。男性向けのスキンケアで何を選んだらいいか分からない、といった方はまず、「メントール」に着目して選んでみてはいかがでしょうか。「しっとり」「さっぱり」は直ぐにその効果を実感しやすく、きっと貴方に合ったものを見つける手がかりとなることでしょう。
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