日焼け止めの新成分「酸化セリウム」
貴方は普段、どんな日焼け止めを使っていますか。なるべく肌に負担を掛けたくない、1日中効果のあるものを使いたい、付け心地を重視したいなど、求めるものは人それぞれかと思いますが、製品も本当にバリエーションに富んでいます。テクスチャーはパウダーからクリーム、ミストまで様々で、UVカットの目的で使われている成分も酸化チタンや酸化亜鉛といったミネラル由来のものからメトキシケイヒ酸エチルヘキシル、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンといった油性のものまで様々です。
選択肢が沢山あることは嬉しいのですが、裏を返すと「決め手に欠ける」印象があるのも日焼け止めの特徴です。肌には優しくても白浮きしてしまう、効果が長持ちしても使用感が重い、使用感が良くても効果が弱いなど、どの製品にも長所と短所が存在します。他のスキンケアやシャンプー等の製品と比較しても、「ベストセラーの日焼け止め」を思い浮かべるのは難しいのではないでしょうか。
そんな中で、日焼け止めの新しい成分として着目されているのが「酸化セリウム」です。酸化チタン、酸化亜鉛に続く第三の紫外線散乱剤として登場した酸化セリウムは肌への負担が少なく、従来の紫外線散乱剤が持つ欠点を克服した成分として、徐々に製品に取り入れられる機会が増えています。
酸化セリウムとはどんな成分なの?
酸化セリウムとはどのような成分なのでしょうか。化粧品に使われる酸化セリウムは化学式CeO2で表される金属酸化物で、常温では白色もしくは淡黄色の粉末状の物質です。酸化チタンや酸化亜鉛と同様に水や油と馴染みにくく、化粧品に配合する際はパウダーに混ぜ合わせる形で、もしくは水や油の中に分散させて利用します。一般的にはやや馴染みの少ない成分ですが、化粧品以外ではガラスや宝石の研磨剤として、あるいは燃料電池の触媒として用いられます。
酸化セリウムの特徴として、光の屈折率及び吸収率に優れていること、また、紫外線から赤外線までの幅広い光を遮断することが挙げられます。紫外線散乱剤に分類される成分はいずれも屈折率が高く、太陽の光を透過させないことによって紫外線、活性酸素による肌へのダメージを防ぎます。また、それぞれの成分が固有の波長の紫外線を吸収します。一般的な日焼け止め成分は火傷のような日焼けの原因となるUV-Bを遮断するものが多いのですが、酸化セリウムはUV-Bだけではなく、慢性的な肌の老化を引き起こす、UV-Aを遮断する効果にも優れています。
酸化セリウムにはどんなメリットがあるの?
このような特徴を持った酸化セリウムですが、日焼け止め成分として見た場合、これまで紫外線散乱剤として利用されてきた酸化チタンや酸化亜鉛が持つ長所を兼ね備え、また、短所を克服しています。酸化チタンは紫外線防御の効果が高く、特にUV-Bの遮断力に優れる一方で、塗ると白浮きが目立ったり、特定の条件で反応性が高くなってしまったり、といった課題を抱えています。一方、酸化亜鉛は肌には優しく白浮きせず、また、酸化チタンと比較するとUV-Aの遮断力に優れていますが、単独で利用するには効果や持続性が弱いことが課題です。両者はしばしば併用されますが、特に紫外線吸収剤を使っていないものについては付け心地が今一つで、白浮きも目立ちます。
酸化セリウムは酸化亜鉛と比較すると全ての紫外線の遮断力、酸化チタンと比較するとUV-Aの遮断力に特に優れています。また、酸化チタンと比較すると肌への刺激性も低く、結晶自体が白よりもやや黄色に近いため、不自然に白浮きしにくいことも特徴です。そのため、酸化セリウムは結晶の色味を気にしないのであれば、酸化亜鉛の上位互換的な存在ということができるでしょう。他の紫外線散乱剤を用いず、酸化セリウムだけでも十分な効果を期待することができますが、酸化チタンと組み合わせて利用することにより、紫外線吸収剤を使わなくてもUV-A、UV-Bの遮断力に優れ、白浮きがより抑えられた製品を作ることが可能です。
「次世代」の日焼け止め成分として
多くの長所を持った酸化セリウムですが、現時点では課題も多く存在します。まず、酸化セリウムは十分に低刺激で安心な成分と言われていますが、長期間使用した場合の安全性が確認されておらず、特定の条件で酸化チタンのように触媒として望ましくない効果を発揮する可能性を排除できていません。また、酸化チタンや酸化亜鉛のようにデメリットを緩和するためのナノ粒子化、他の成分との組み合わせ等の研究が十分に行われておらず、化粧品成分としてはやや発展途上であることも事実です。原料としてもいわゆる「レアメタル」に分類されるため、国際情勢次第では入手が困難になる可能性もあります。
このように、現状では多くの課題を抱えてはいるものの、それでも尚、酸化セリウムには日焼け止めをより快適で、効果の高いものへと改良する上で大きな期待がかけられています。最近では男女を問わず必須のアイテムとなりつつある日焼け止めの需要は高く、また、大部分の人がより低刺激で、付け心地に優れた製品が欲しいと感じています。まだ少し待っても良いかもしれませんが、身近なドラッグストア等のお店でも見かけるようになったら、一度、酸化セリウムを使った日焼け止めを試してみてはいかがでしょうか。
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