優しく冷えるひんやりコスメ、その新しい成分とは?

成分

「冷えるけど」「痛い」ひんやりコスメ

 今年ももうすぐ夏が訪れようとしていますが、貴方は夏の風物詩と聞いて何を思い浮かべますか。海や花火、スイカにかき氷など、夏を少しでも涼しく過ごすためのイベントや食べ物が定番かと思いますが、最近では「ひんやりコスメ」もその1つとなりつつあります。夏になると生活雑貨店やドラッグストアの店頭には「ひんやり」をうたったスプレーやボディーシートなどが並べられ、多くの人が購入しています。ひんやりコスメには主にメントールやエタノールが利用されており、肌につけるとその働きでしばし暑さを忘れさせてくれます。

 しかし、ひんやりコスメは「手放せない」と思う方も多い一方で、その刺激が苦手という声も少なくありません。主成分であるメントールは肌につけると「ひんやり」だけではなく「痛み」を感じることもあり、その匂いも少量では爽やかですが、量が多くなるにつれて不快に感じることもあります。また、もう1つの主成分であるエタノールも刺激性のある成分で、特に「お酒に弱い」方にとっては腫れやかゆみの原因となってしまうことがあります。肌があまり強くなくても、安心して使うことができるアイテムはないのでしょうか。

低刺激でひんやり長持ち「メントール誘導体」とは?

 刺激性の強い成分として紹介されることも多いメントールですが、その刺激は肌へのダメージによるものではなく、センサーを活性化させる働きによってもたらされる錯覚です。メントールを肌につけると皮膚に存在するTRPチャネル(温度や痛みを感じるセンサー)の中で冷たさを感じるTPRM8、及び痛みや炎症を感じるTRPA1と呼ばれる部分を活性化し、ひんやり感と刺激感を一時的にもたらします。この作用は長時間持続しないため、メントールを使い続けても肌に大きな問題を引き起こすことはないのですが、肌につけた時に感じる痛みはひんやり感の心地よさを大きく損ないます。

 このメントールによる「痛み」を軽減しつつ、十分なひんやり感を持たせたものとして最近注目されているものが、「メントール誘導体」と呼ばれる成分です。メントール誘導体としては主に乳酸メンチルやメントキシプロパンジオール(l-メンチルグリセリルエーテル)の2種類が知られており、最近、メントールと同様にひんやりコスメの成分として見かけるようになってきました。

 これらのメントール誘導体の大きな特徴として、先に紹介したTRPチャネルの「TRP1」の働きを抑制する作用の強さが挙げられます。この作用はメントールの特徴としても知られており、鎮痛効果を目的として冷湿布などにも用いられていますが、メントール誘導体はメントールよりもこの作用がより強く、痛みを感じにくくなることが判っています。そのため、メントールと比較して肌につけてもより刺激感が少なく、ひんやり感の心地よさだけを享受することができます。

 また、メントール誘導体はメントールに比べて揮発性が低いことも特徴です。メントールの揮発性の強さは独特の爽やかな匂いをもたらしますが、同時に強すぎる匂いによる不快感や眼や鼻への刺激、効果が長時間持続しない原因でもありました。一方、揮発性の低いメントール誘導体は少しずつしか揮発しないためその匂いも弱く(他の香りと合わせて利用することもできます)、肌により浸透するため効果が比較的長く持続します。

メントール以外の「優しい」ひんやり成分とは?

 メントール誘導体はメントールを人工的に改良したものですが、メントール系以外でもひんやり効果が期待できる成分は存在します。以前からよく利用されていたのが冷湿布の成分としてもお馴染みのサリチル酸メチルやさっぱりとした使用感で知られるユーカリ葉エキスで、一部のスキンケア製品などで見かけることがあります。しかし、前者は比較的強い刺激性や湿布を思わせるような臭い、後者は「ひんやり」よりは「スースー」とした使用感のため、メントールのようにひんやり目的で利用されることは多くありませんでした。

 しかし、最近になって「メチルジイソプロピルプロピオン酸アミド」と呼ばれる優れた成分が開発され、徐々に利用されるようになっています。メチルジイソプロピルプロピオン酸アミドはメントールと同様に肌に作用することよってひんやり感を出しますが、メントールと比較してその効果は穏やかで、刺激を感じにくいことが特徴です。また、こちらもメントール誘導体と同様に揮発性が低いため匂いも感じにくく、効果が長時間持続します。さらに、この成分はメントールやその誘導体と異なり、エタノール以外にも溶かすことができるため、今後はアルコールフリーの製品のひんやり成分として利用される機会も増えるでしょう。

「優しく」「ひんやり」の時代へ

今までは「涼しい」反面「痛い」アイテムだったひんやりコスメですが、メントール誘導体やメチルジイソプロピルプロピオン酸アミドのような成分が開発されたこと、また、より多くの方が利用し、色々な意見を寄せるようになったことにより、そのイメージは少しずつ変わりつつあります。今後、年々暑くなるばかりの夏を少しでも快適に過ごすため、メントールやエタノールが苦手な方でも利用できるような製品が多く発売されてゆくことでしょう。

以前のイメージでひんやりコスメを使いたくないと思っていた方、あるいはメントールの刺激感で化粧品自体が嫌になってしまっていた男性の方も、もう一度手にとって使ってみてはいかがでしょうか。かつては「ひんやり」「痛い」だったものが、少しずつですが、「優しく」「ひんやり」に変わりつつあることをきっと実感できることでしょう。

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