アルコールと化粧品の関係
アルコールは人類の歴史が始まって以来、常に人々の暮らしの側に在り続けました。ある時は素敵な食事と一緒に、またある時は恋を盛り上げるために、そのまたある時は明日の仕事のエネルギーとして多くの人に愛され続け、21世紀の今でも最高の嗜好品としての地位を確立しています。また、アルコールは単に飲むだけではなく、他の目的でも使用されています。インフルエンザやコロナウイルスが気になる季節、あるいは料理の前に手を消毒したい時、最も手軽に使える成分はアルコールです。また、時にはキャンプの明かりを灯すため、あるいは自動車を走らせるための燃料として使われることもあります。
そんなアルコールですが、化粧品の分野でも身近な成分です。手軽に入手可能で、水とも油とも馴染みが良く、飲むこともできるアルコールはスキンケアからヘアケア、メイクアップまで幅広いジャンルに使用されており、その便利さを裏付けています。しかし、あまりにも当たり前のように使われていることから、アルコールがどうして化粧品に配合されているのか、分からない方もいらっしゃるかもしれません。
化粧品に含まれているアルコール、どんな成分なの?
そもそも、アルコールとはどんな成分なのでしょうか。実は、化学的な観点では「アルコール」は単一の成分ではなく、ある特定の構造を持った化合物の総称です。その性質は種類によって大きく異なり、室温で液体のものが一般的ですが、固体のものも存在します。また、成分としての特徴も様々で、グリセリンのようにとろみが多く肌に優しいものからメタノールのように毒性が強いものまで、多くの種類が存在します。しかし、化粧品の話題で「アルコール」が取り上げられた場合、それはお酒の主成分でもある「エタノール」(もしくは無水エタノール)のことを指します。
エタノールは化粧品に配合する上で、大変便利な成分です。最大の特長は水とも油とも任意の割合で混ざり合う性質です。化粧品には大きく分けて化粧水等の水性のもの、ワックス等の油性のものが存在しますが、水性の製品に水に溶けにくい香料や植物エキスを溶かしたいと考えた場合、エタノールが良き仲介役となります。この性質はメイクや肌の皮脂を落とす目的でも活かすことが可能です。肌の上で揮発しやすいため使用感もさっぱりとしており、特に夏場には心地よさを感じます。
また、エタノールは殺菌作用にも優れています。開封後の化粧品の品質を保つためには防腐剤を入れる必要がありますが、エタノール自体が優れた防腐剤として機能するため、他の成分の使用を抑えることが可能です。
アルコール、肌への負担は大丈夫?
多くの製品に使用されているエタノールですが、現在では低刺激をコンセプトとした化粧品を中心に、フリー処方をうたった製品が販売されています。どのような目的で開発されているのでしょうか。
エタノールは安全に使用可能な成分ですが、特に高濃度で配合した場合や敏感肌の場合、肌に塗ると刺激を感じてしまうことがあります。優れた揮発性は夏の暑い時期には良いのですが、冬の寒い時期には少し寒く感じてしまうことがあります。また、バッチテストを受けた方もいらっしゃるかもしれませんが、体質によってはアルコール(エタノール)にアレルギー反応を起こすことがあります。
アルコールフリーの化粧品は特にアレルギーを持っている方にとって良い選択肢となります。エタノールは化粧水や乳液、リキッドファンデーション等、水性の化粧品との相性が良いためよく使用されますが、フリー処方の化粧品を選ぶことによって、肌のトラブルを防ぐことが可能です。フリー処方の場合、防腐剤としてのエタノールの代わりには次節で紹介するフェノキシエタノール等、刺激性が低く、性質が似た成分が使用されます。
「アルコールフリー」なのに、アルコールが入っているのはどうして?
ところで、アルコールフリーの化粧品を探していた時に、成分一覧に「〇〇アルコール」といった記載を見つけた経験はないでしょうか。「ベヘニルアルコール」「ステアリルアルコール」等が代表的な成分で、一見紛らわしい記載ですが、これはいわゆる「高級アルコール」と呼ばれるもので、アルコール(エタノール)とは全く異なった成分です。高級アルコールは油脂から精製されますが、常温では固体で水にほとんど溶けません。刺激性もなく、化粧品には乳化剤や感触改良の目的で使用されています。
また、「エタノール」を名前の一部に含んだ成分として、「フェノキシエタノール」が存在します。フェノキシエタノールはエタノールと同じく防腐剤目的で使用されますが、エチレングリコールとフェノールがエーテル結合したものであるため化学的性質は異なり、殺菌作用はあるもののエタノールと比較して刺激性が低い成分です。アルコールフリー、パラベンフリーの製品の防腐剤としてよく用いられています。
これらの成分はエタノールにアレルギーを持つ方でも安心して使用することが可能です。スキンケアやメイクに直接役立つ成分ではありませんが、化粧品を開封後も安心して使い続けられるようにするための添加剤として、重要な役割を果たしています。
アルコール入りの化粧品、これからも使い続けて大丈夫?
化粧品開発の現場では、日々肌に対する刺激がより少なく、より美しさを演出できる新しい成分、あるいは成分の組み合わせが検討されています。代表的なアルコールであるエタノールは化粧品成分としては少し刺激が強めではあるものの、手に入りやすく様々な成分の仲介役となる性質は大変優れたもので、今後も利用され続けることでしょう。
「アルコールは身体に悪い」という意見からフリー処方を推す動きもありますが、その分配合する成分に制限が生じたり、すぐに使いきらなければいけなかったり、あるいはとても高かったり、といった代償が発生します。敏感肌やアレルギーにお悩みの場合は「卒酒」も良い選択肢ですが、そうでない場合は使いやすさや好みの感触などを踏まえ、アルコール以外の部分に着目し、より自分に合ったものを選んでみてはいかがでしょうか。
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