フレグランスに「臭い」成分?一体どうして?どんな成分なの?

「良い匂い」?それとも「悪臭」?

 貴方はどんな匂いが好きですか。ラベンダーや金木犀のような甘くリラックスできるもの、柑橘系やミントのように爽やかで涼しさを感じさせるもの、ジャスミンやイランイランのようなエキゾチックなものなど、世界は様々な素敵な匂いが溢れています。

 その一方、世界にはどうしても好きになれない、「悪臭」と呼ばれるものも多く存在します。水が溜まっている排水溝、時の流れに取り残された路地裏の一角、あるいは夏の満員電車など、その臭いに思わず憂鬱になってしまうことがあります。また、一般的に「良い匂い」とされるものであっても、匂いが強くなるにしたがって段々と心地よさは薄れ、不快感へと変わってしまうことがあります。シャンプーや制汗剤の臭いが気になると言われてしまった、フレグランスオイルやインセンスを換気せずに使っていたら気持ち悪くなった、といった経験をされた方もいらっしゃることでしょう。

 しかし、香りの不思議なところは逆のパターンもあることです。瓶に入った香水の匂いを始めた嗅いだ時、あるいは香水をつけた方としばらく近くで過ごした時、気持ち悪くなってしまった経験をした方も少なくないでしょう。その一方で、ほんの1、2滴を首筋や手首につけた時、香りの印象は大きく変わり、普段使いのフレグランスでは想像もできないような複雑で官能的、それでいて心地良いと感じるようになります。一体、この香りの感じ方の変化はどのような成分によってもたらされるものなのでしょうか。

悪臭?それとも艶めかしい香り?「インドール」

 匂いの感じ方はその日の体調や過去の経験などによって左右されるため、誰にとっても良いもの、悪いものといったものは存在しませんが、一般的に美味しいものや綺麗なものに紐づいた匂いは多くの人にとって心地よく、食べたら体調を崩しそうなもの、動物との近すぎる距離、といったものに紐づいた臭いは不快に感じられます。しかし、「近すぎる距離」によって感じられる臭いは時に艶めかしさを感じさせる存在としてフレグランス製品に利用されることがあり、その代表的な成分としてインドールが挙げられます。

 インドールは化学式C8H7Nで表されるベンゼン環とピロール環が縮合して生成した有機化合物で、バクテリアがアミノ酸を分解することによって得られる、糞便や下水処理場の悪臭の原因として知られる代表的な成分の1つです。人の体内でも発生するこの成分の臭いは強烈なもので、誰もが不快に感じるものです。

 しかし、このインドールは「三大フローラル」として、ローズやスズランと並んで利用されるジャスミンに含まれていることで知られています。ジャスミンの精油は酢酸ベンジルやリナロールなど、ラベンダー等の一般的な花の香りに含まれている物質を主成分としていますが、そこに2~3%のインドールが加わることで、その匂いはどこか動物的で艶めかしく感じられるようになります。

 この微量のインドールによって醸し出されるジャスミンの香りを有名にしたものは世界で最も有名な香水の1つで、マリリン・モンローなどのエピソードでも知られているシャネルの5番です。ジャスミンは南仏で19世紀後半以降、天然香料として大量に栽培されるようになりましたが、「女性らしさ」を表現するため、シャネルの5番にはジャスミンのアブソリュートが使用されています。

油臭い?刺激臭?それともフルーティー?「アルデヒド」

 薄めることで良い香りになる成分として、「アルデヒド」もよく知られた存在です。アルデヒドは分子内にアルデヒド基を持つ成分の総称で、一般的に炭素数の多いものはいわゆる「脂臭い」臭い、炭素数の少ないものは刺激臭があることで知られています。最も有名なアルデヒドは体内でお酒(エタノール)を分解した時に生成するアセトアルデヒドで、甘く刺激的ないわゆる「酒臭さ」の正体として知られています。お酒が好きな方であれば、翌日、この臭いに悩まされた経験があるかもしれません。しかし、このアセトアルデヒドの濃度を十分に薄めると青りんごを思わせるような爽やかな匂いに変化します。

 また、炭素数8〜12のアルデヒドは高濃度、低濃度で匂いの性格が大きく変わることで知られており、フレグランス製品に好んで利用されています。例えば、炭素数8のオクタナールは高濃度ではカメムシのような不快臭であるものの、低濃度では甘い柑橘系の匂いに変化し、炭素数12のドデカナールは高濃度で脂臭く、決して好ましい印象ではないのですが、低濃度ではスミレのような甘くパウダリーな匂いへと変化します。

 化学的には「アルデヒド」ではなく「ラクトン」に分類されますが、ピーチアルデヒド(γ-ウンデカラクトン)も濃度によってその性格が大きく変化します。高濃度のピーチアルデヒドはかなりオイリーな臭いで、やや不快に感じられるものですが、低濃度のピーチアルデヒドは桃のような甘く爽やかな匂いとして、また、若い女性に特有の人を惹きつける匂いの正体としても知られています。こちらはフレグランス製品にとどまらず、最近では年齢と共に発生するいわゆる「加齢臭」をマスキングする目的で、デオドラント製品などにも取り入れられるようになりました。

匂いに深みをもたらす存在として

 このように、一般的に悪臭をもたらす存在として知られている成分であっても、ごく微量のみを使用した場合、その匂いの性格が大きく変わることがあります。特にインドールやアルデヒドは様々なフレグランスにブレンドすることによって、香りに単なる心地良さにとどまらない、深みや色気をもたらします。そのような成分の多くは動物由来で、天然のムスクのようにワシントン条約等で流通が厳しく制限されているものもありますが、似たような匂いを持った成分が合成され、多くのアイテムに利用されています。柑橘系やフローラル系のフレグランスは外さない、定番の存在ですが、時には貴方もジャスミンやアルデヒドなどの、複雑で官能的な香りを身に纏ってみてはいかがでしょうか。

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