化粧品の「とろける」感覚、どんな成分によるものなの?

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肌につけると「とろける」コスメ

  貴方が普段何気なく使っているクリームや口紅ですが、どんな使い心地のものが好きですか。さっぱり、しっとり、ひんやり、人によって好みは様々かと思いますが、最近のトレンドの1つとして、「とろける」ことをうたったものが販売されています。容器に入っている時は普通の商品と変わらないのですが、肌につけた瞬間に優しく溶け、よく馴染むのが特徴です。強いべたつきを感じることもなく、また、肌の上で伸ばしやすいため、感触を楽しむだけではなく、使いやすさの面でも優れています。

 この「肌の上でとろける感触」はどのようにして生み出されるのでしょうか。この「感触」の部分はクリームの美容成分や口紅の色と比べてあまり注目される分野ではありません。しかし、このような化粧品については、成分の組み合わせを工夫することによって、毎日使いたくなるような、絶妙な使い心地を実現することができます。

科学的な視点から見た「とろける」とは?

 では、化粧品が「とろける」瞬間、科学的にはどのようなことが起こっているのでしょうか。口紅やクリームといった油性化粧品の主成分は「脂肪酸」や「ワックス」、そのグリセリンエステルである「油脂」と呼ばれるもので、一般的に室温では冷蔵庫で冷やしたバターのように固まっており、科学的には「固体」と呼ばれます。この固まった状態では脂肪酸やワックス、油脂の分子(ある成分がその性質を示す最小の単位)はお互いに「分子間力」と呼ばれる力で強く結びついているため、元々の位置から自由に動くことができません。

 しかし、温度を上げてゆくと徐々にそれぞれの分子が運動しようとする力(運動エネルギー)が増えてゆき、ある時点で元々の位置を飛び出し、集団の中で自由に動き回れるようになります。この状態は一般的に「液体」と呼ばれ、固体から液体に変わる温度を「融点」、固体が液体になる現象を「融解」と呼びます。最も身近なものとしては、氷が溶けて水になる温度(0℃)がよく知られています(余談ですが、私達が天気予報等で目にする「℃」は水の融点を0℃、沸点を100℃として定義しています)。

 化粧品が「とろけた」瞬間、正にこの「融解」が起こっています。ほんの数秒前まで固体だったものが、体温によって温められた結果、より結束が緩やかな液体へと変化します。但し、脂肪酸やワックスは水と比較して液体になっても分子間力が強いため、水よりも飛び散りにくかったり、べたつきを感じたりと、少し固体に近いような性質も引き続き持ち合わせています。このことが「溶ける」とはまた違った、「とろける」感触を生み出します。

化粧品向けの「とろける」成分とは?

 では、この化粧品の「とろける」感触ですが、どんな成分によって得られるのでしょうか。化粧品をとろけさせる為には①人肌に近い温度で溶けること、②皮脂に近い成分であること(付け心地が良いこと)が求められます。①だけを満たすのであればパーム油やココナッツ油でも良いのですが、主成分のラウリン酸は石鹸や洗剤の成分としてもお馴染みであるように、皮脂と馴染みよりはむしろ洗い流してしまうため不適当です。また、オリーブ油やツバキ油は肌と馴染みが良いのですが、主成分のオレイン酸の融点が約13℃と低いため、室温で既にとろけてしまいます。

 このとろける感覚は複数の油脂や油分の組み合わせによっても得ることができますが、天然でも優れた成分が存在します。「シアバター」はその代表的なものです。シアバターとはシアバターノキから採取される常温では固体の脂肪酸ですが、主成分として皮脂に含まれており、肌ととても馴染みやすいオレイン酸の他に、融点が比較的高いステアリン酸も含んでいるため、丁度体温に近い36℃で融解します。ステアリン酸も皮脂の成分と構造が非常に似ているため、付け心地の良さととろける感触を両立させることができます。

 また、シアバター以外では「馬油」も体温付近でとろける成分として知られています。馬油の主成分はシアバターと同様にオレイン酸ですが、他にリノール酸やパルミチン酸も含んでおり、30℃~40℃で融解します。こちらはシアバターよりも少しだけ融点が低く、夏場には先にとろけてしまうこともありますが、これらの脂肪酸も肌との馴染みはとても良く、また、セラミドによる保湿作用等も期待することができます。

「とろける」だけじゃない、化粧品の油分と融点の話

 このように、化粧品のトレンドの1つとなっている「とろける」感触ですが、配合する油性成分を調整することで、様々な質感を出すことができます。例えばヘアワックスであれば、キープ力重視のものには比較的融点の高いワックスが利用され、しっとり感重視のものには融点の低いものが用いられます。また、スキンケア向けのクリームやオイルでは冬の寒い時期でも固まらない、常にとろけた状態のものが好んで利用されます。化粧品には様々な油分が使用されていますが、融点を調整することが使い分けの理由の1つです。

 思わずとろけてしまいそうな暑さが続いていて、必要な時以外は外出したくない、という方も多いと思います。暑さが落ち着いて、本格的なお出かけシーズンになる前に、「とろける」コスメについても調べてみてはいかがでしょうか。

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