化粧品の「機内持ち込み制限」「火気厳禁」一体どうして?
少しショッキングな問いかけになりますが、貴方が毎日使っている化粧品、本当に「安全」なものでしょうか。毎日使っても問題ないものだと謳っているものであっても、本当に何のリスクもないのでしょうか。実は、多くの方にとっては信じられない話だと思いますが、化粧品は一部の仕事に携わる方にとっては「危険」で取り扱いに細心の注意が必要なものとみなされており、様々な制限がかけられています。
特に慎重に取り扱っているのは「空の安全」に関わる方々で、香水や制汗スプレー、ネイルエナメルといった製品は「航空危険物」として機内への持ち込みや飛行機での輸送自体が厳しく規制されており、その他の化粧品についても「透明なポーチに入れて、必要なだけ持ち歩く」ように制限されています。また、飛行機で持ち運ばない場合であっても、一部の製品には「火気厳禁」「引火性」といった表示が記載されており、日常的な取り扱いに注意するよう呼びかけられています。「毎日使っても安全」なはずの化粧品で、どうしてこのような注意喚起がされているのでしょうか。
実は「燃えやすい」化粧品
肌にとっての安全性は高い化粧品ですが、実は水や金属酸化物などの一部の成分を除くと比較的「燃えやすい」成分が利用されています。化粧品に利用されている鉱物油や油脂、シリコーンオイル、アルコールといった石油や植物油に由来する成分は炭素原子を多く含んでいるため、一定の温度になると成分の一部が気化して酸素と反応し、燃焼する性質を持っており、燃焼が始まる温度を「引火点」と呼びます。一般的な鉱物油の引火点は200℃前後、オリーブオイルで約225℃、菜種油では300℃以上(油脂も概ね同じような引火点を持っています)と言われており、これらは「燃えやすい」成分ではあるものの、フライパンに布いて温めてもすぐには引火しないため、料理油としても広く使用されています。
一方、化粧品成分の中でも香水や制汗スプレーなどに使用されているエタノールやLPG、DMEなどは引火点が低く、エタノールでは濃度に応じて12℃~60℃、LPGやDMEは-20℃以下と常温、もしくはそれ以下の温度でも容易に燃焼します。幸いにもこれらの成分は常温で発火(自然に火が付くこと)はしないため、同じく飛行機への持ち込みが制限されているモバイルバッテリー程は注意を払う必要はありませんが、ガスコンロや石油ファンヒーター、ライターなどの火気の傍で使用すると簡単に火がついてしまいます。
スプレーや香水の「爆発」には特に注意!
エタノールやLPG、DMEといった成分は単に火がつきやすいだけではなく、条件が揃うことで「爆発」と呼ばれる現象を引き起こしてしまいます。通常、化粧品に使われているエタノールやLPG,DMEは液体として容器に充填されていますが、加熱されることによって気体へと変化し、容器内部の圧力を上昇させます。スプレー缶や香水の瓶は比較的丈夫なものが多いのですが、容器内外の圧力の差が大きくなり過ぎたり、劣化していたりすると「物理的爆発」を引き起こして破裂し、大きな怪我の原因となります。この現象は気圧の急激な変化だけでも引き起こされるため、スプレーや香水の飛行機への持ち込みは細心の注意が必要です。
そして、物理的爆発によって容器外に漏れ出したエタノールやLPG、DMEは急激に揮発して気体になり、空気中に拡散されて酸素と混合します。この状態は非常に燃焼反応が起こりやすく、火気や熱源が存在すると急激に反応が進行し、「化学的爆発」が発生します。この反応は大量の発熱を伴うため、周囲のものを燃焼させたり、ひどい火傷を負う原因となったりと、より深刻な状態を引き起こします。しかも、容器の破損状態によっては勢いよく噴き出したガスに着火し、より遠くに燃え拡がる原因となることがあります。
「安心」「安全」のためにはどんなことに気をつければいいの?
条件次第で深刻な事故の原因となるスプレーや香水等の製品ですが、安全に使用するためには引火の原因となる熱源や火気から遠ざけることが大事です。これらの製品を使用する際はキッチンやファンヒーターの側を避け、換気が十分な環境で行うようにしてください。また、ガスが充填されたスプレーについては使用後、所定の方法で(やはりキッチンやファンヒーターの側を避けて)ガス抜きを行い、市町村で指定された方法でゴミに出すようにしてください。また、飛行機に乗る際も航空会社に指定された通りにポーチに入れるなどの方法を取り、必要以上に機内や預け荷物に入れないようにしてください。
このようなスプレーや香水の「危険性」は幸いにも、「使わない方がいい」ことを意味するものではありません。化粧品を取り上げる際には「安全」「危険」といった言葉がしばしば使用され、時にミスリーディングを誘うこともありますが、この「危険性」は「取扱注意」といった意味で、肌への影響を警告したものではありません。
ヘアスプレーやスプレータイプの制汗剤、日焼け止めは手軽に使える日常生活に欠かせない存在で、香水もほんの一滴つけるだけで上品な香りを楽しむことができます。そして、普通に使う分には安全であるからこそ、ドラッグストアやディスカウントストアの店頭でも気軽に手に取って買うことができます。今まで通り使い続けることに全く問題はありませんが、安心して使い続けられるようにするため、「火に近づけてはいけない」ことだけは覚えておくようにしてください。