最も身近な植物油、パーム油と化粧品の関係

成分

最も身近な天然由来の油、パーム油

 毎日の肌や髪のお手入れ、少しでも刺激が少ない優しいものを使いたい、そして可能であれば天然由来の成分が多く使われた製品を使用したい、そんな気持ちをお持ちの方は多いのではないでしょうか。1つ1つの成分の働きが判らなくても、天然素材をイメージさせる成分が含まれていると、何となく身体に良さそうに思われるものです。油分だけでもオリーブ果実油や米ぬか油、スクワランオイル等、様々な天然由来の成分が、製品に名前や効果を明示する形で使用されています。

 しかし、最も利用されているのはよく耳にするそれらの油ではなく、パーム油と呼ばれるアブラヤシの果実から採れる油です。パーム油はそのまま成分として利用することもできますが、むしろ化粧品にとって必要な成分を抽出するために、その名前を出すことなく利用されています。パーム油は化粧品以外にも石鹸や洗剤の原料、食品油、最近では燃料といったあらゆる分野に利用されており、「植物油」と表記がある製品の大半はパーム油が使われている、といっても過言ではありません。

パーム油ってどうやって採れるの?どんな成分が含まれているの?

 パーム油は主に栽培されたアブラヤシの果実を収穫し、果実を搾り取ることによって得られます。(ヤシとしては他にココナッツオイルで有名なココヤシもありますが、アブラヤシの方が好んで利用されます)この時、果実から搾り取った油を狭い意味でのパーム油、種から搾り取った油をパーム核油とも呼びます。 

パーム油には総称して「脂肪酸」と呼ばれる物質が多く含まれています。脂肪酸とは炭素原子が直鎖状に繋がった構造の先にカルボキシル基と呼ばれる部位が付属している物質で、炭素の長さや炭素と繋がっている水素原子の数によって様々な性質を示します。代表的な物質としては食酢の酸味成分として有名な酢酸が挙げられます。パーム核油にはラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸と呼ばれる物質内の炭素数が12~18個の脂肪酸が含まれており、特にラウリン酸が多く含まれています。炭素数の少ない脂肪酸は一般的に肌への刺激性がありますが、これらの脂肪酸は肌に対する刺激が十分に少ないため、安心して様々な用途に使用することが可能です。

パーム油は化粧品にどうやって使われているの?

 では、パーム油は化粧品にどのように使用されているのでしょうか。オリーブ油やココナッツオイル、米ぬか油といった油性成分は化粧品の成分表示で見かける機会が多いのですが、パーム油自体はやや少ないように思われます。しかし、パーム油は主にシャンプーや石鹸に必要な「原料を作るための原料」としてあらゆる製品に用いられています。

 代表的な成分であるラウリン酸を例に挙げると、ラウリン酸を水酸化カリウムと反応させると石鹼の原料であるラウリン酸カリウムが生成します。アルカリ性が強いためやや使いにくい成分ですが、一部の製品に使用されています(ミリスチン酸、オレイン酸はこの水酸化カリウム等と反応させる方法が主流です)。しかし、より一般的な使い方としては、ラウリン酸を還元してラウリルアルコール(1-ドデカノール)とし、ラウリルアルコールを硫酸エステル化した上で水酸化ナトリウムと反応させ、「石油系」界面活性剤として有名なラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウムを合成する用途が挙げられます。ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウムは安価で安定した洗浄作用を示す成分として、様々なシャンプーに取り入れられています。

パーム油が環境を破壊している、と聞いたけど…

 パーム油に関しては最近のSDGsに関する意識の高まりの中で、環境破壊の原因となっていることが問題視されています。一見、天然由来で石油よりも環境に優しそうな原料のようにも思われますが、どうしてなのでしょうか。

アブラヤシ自体はコメや小麦のように栽培しやすい植物であるため、適量を栽培し、利用し続ける分には環境への負荷は大きくありません。しかし、パーム油の需要があまりも多いこと、大規模な栽培に適していることがアブラヤシ農園の大規模開発に繋がっており、開発に伴う熱帯雨林の破壊や生態系の破壊が引き起こされています。また、アブラヤシの実の採取や圧搾に子供や移民の労働力が多く利用され、十分な能力開発の機会が得られないことも大きな問題となっています。

従来は環境問題に関しては二酸化炭素の排出量の削減、希少動物の保護等が問題にされてきましたが、SDGsの考え方はやや異なり、「開発を進めることによって(動植物も含めた)全員がより豊かになれるか」といった観点に基づいています。パーム油の栽培は現状、「全員が豊かになる」といった観点から、色々と課題を抱えているのが現状です。

パーム油との上手な付き合い方

 SDGsの観点からは幾分問題を抱えているパーム油ですが、「石油よりも石油系界面活性剤を安価に合成可能」「栽培効率に優れている」といったメリットが大きく、今後もますます使用されてゆくことでしょう。今後、画期的な脂肪酸の合成方法が開発される可能性はありますが、現状ではパーム油の使用自体を問題視し、使用を止めるような声を上げるのは私達の生活だけではなく、生産国の方々にとっても望ましいとはいえません。

大切なのはそれがどの様に生産、使用されているかを把握し、可能であればより持続性に配慮したパーム油が使われた製品を選ぶことです。パーム油は製品に直接使われていないことも多く、その生産地の事情について、かつては企業の宣伝を信じるしかなかったのですが、最近では環境関連のNGOであるWWFが持続可能性に配慮して生産されたパーム油由来の原料を使用している企業に対してRSPOサプライチェーン認証を与えており、1つの指標となっています。まだ普及には少し時間がかかりそうですが、近い将来には判断の基準として利用することができるでしょう。

あまりにも当たり前のように利用されているため、その存在を忘れてしまうこともあるパーム油ですが、私達が安心、安全に化粧品を利用するためには必要不可欠な存在です。時には海の向こうの生産者の方々の暮らしや自然環境について、想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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